江戸時代からの聖観音座像の修復作業。古さを残しつつ修復、滋賀県彦根市のお客様

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私は、日本を代表する仏壇の産地・彦根で、こだわりの手造り仏壇を製造しております「井上仏壇」の井上昌一と申します。

今回は、滋賀県彦根市のお客様からお預かりした、江戸時代に作られた聖観音座像の修復作業についてご紹介いたします。

 

 聖観音座像修復 滋賀県彦根市のお客様

 

お世話になっているお寺様からのご紹介で、彦根市にお住まいのお客様から、古い仏像の修復についてご相談をいただきました。ご両親が亡くなられた後、ご実家にあった仏像とお位牌を引き取り、ご自宅でお祀りすることになり、傷んだ仏像を修理したいとのことでした。

仏像を拝見させていただくと、厨子に納められた聖観音座像で、江戸時代に作られたことは間違いない非常に歴史のあるものでした。かなりの傷みや一部欠損が見られ、お客様もその点を気にされていましたが、修復に際して「新しく作り直すのではなく、古さを残しながら修繕してほしい」とのご要望をいただきました。

修復前

こちらが、状態を確認した際の仏像です。3.5寸の聖観音座像で、足元から頭の先まで約9cmほどの大きさです。江戸時代から代々受け継がれてきた、お家の歴史そのものともいえる貴重な仏像です。

 

仏像全体には、長年の間に付着した汚れや油煙が堆積していました。また、右手と蓮華の一部が欠損していることも確認できました。さらに、お客様はお顔の色合いが変わっていて、不自然に見える点も気にされていらっしゃいました。

 

左手に持っていたものも欠失しており、さらに宝冠錺(ほうかんかざり)の一部が破損していましたが、幸いにも破損した部分は残っていました。

 

こちらは、蓮華部分を台座から取り外した状態です。この台座部分は厨子に接着されているため、取り外しができませんでした。蓮弁の脱落が見られ、台座下部の框(かまち)の一部が破損していることも確認できました。

 

作業仕様設計書1/3

作業仕様設計書2/3

作業仕様設計書3/3

状態を確認し、お客様のご希望を伺ったうえで、まずはお見積書とともに、現在の状態や作業の詳細を記載した作業仕様設計書を提出させていただきました。厨子については、仏像の修復のために取り換えが必要だと考えていましたが、お客様のご希望でそのまま使用することになりました。そのため、最終的には取り外し可能な蓮華より上の部分を修復させていただくこととなりました。内容をご確認いただいたうえで、作業を開始いたしました。

 

修復作業

こちらは、仏像の背中についている光背部分の修復作業の様子です。光背は金属でできており、アンモニア水溶液を使用して汚れを浮き上がらせ、きれいにしていきます。仏像本体も厨子から取り外し、仏身に堆積した油煙などの汚れを同じ方法で丁寧に除去していきます。

 

欠失していた右手と左手の持ち物を新たに補いました。仏師がヒノキや松などの白木を使って彫り、彩色で周囲の色と合わせていきます。もともとの手元がどのような形だったのかはわかりませんが、宝冠が付いていることから聖観音と判断し、聖観音の一般的な右手の形をイメージして彫り上げました。仕上げとして、周辺の箇所と調和するように古色を施しました。

 

こちらは、宝冠錺(ほうかんかざり)の修復作業の様子です。錺(かざり)金具師が担当します。まず宝冠錺を取り外し、洗浄して汚れを落とします。その後、欠失部分を新たに補い、銅線を交換して再度絡げ直しました。最後に、新補した部分に古色を施し、全体と調和させます。

 

蓮台の欠失していた蓮弁も新たに補い、古色を施しました。全体のゆるみを確認し、脱落していた蓮弁を締め直した後、厨子内に再度固定しました。

 

修復後

修復が完了した仏像を、厨子に再設置しました。

 

仏像本体の修復が完了しました。欠失していた部分は新たに補われ、古色を施したことで、他の部分と遜色のない仕上がりとなっています。

 

細かい宝冠錺も見事に再現されています。残っていた部分を参考にしながら、推測で新補した部分もあります。お顔の不自然な部分についても、洗浄などを行い、他の部分と違和感なく仕上げました。

 

ご自宅への納品時の様子です。修復が完了した観音様とお位牌を、お客様のご希望の場所にお祀りさせていただきました。

 

お客様には仕上がりに大変ご満足いただけました。当初は、「気になっているところは直したいけれど、古さは残したい」という、一見矛盾したご希望を実現できるか不安に思われていたそうですが、可能な方法をお話しし、詳しい作業仕様設計書をご確認いただいたうえで、ご納得いただいて修復をお任せいただきました。ご先祖様からずっと受け継がれてきた仏像を後世に残すことができ、ご満足いただけたことを本当にうれしく思っております。どうぞこれからも末永く大切にお祀りください。このたびは、当社に仏像の修復をご用命いただき、ありがとうございました。

今回は、非常に歴史のある仏像の修復作業の様子をご紹介いたしました。近年では、お仏壇は新調されても、できるだけ受け継いできた仏像や仏具を残したいというご相談が増えてきました。修復に関しては、新調した方が良い場合でも、古くから受け継がれてきたという点に価値を見出し、修復を希望されるお客様の気持ちを大切にして、必ず修復を行っています。見た目のきれいさや費用に関わらず、何よりもお客様のお気持ちを尊重することが最優先だと考えています。

また、今回のような「古さを残した修復」を可能にしているのは、仏師や金具師の高い技術によるものです。当社では、仏像の修復については必ず専門の仏師に依頼しており、状態の確認から詳細な作業仕様設計書の作成、実際の修復作業まで、専門性の高い丁寧な仕事ぶりをいつもありがたく思っています。私よりもお若い職人さんがこうした伝統的な技術を将来に受け継いでいることを、私も大変うれしく、頼もしく感じています。これからもこの技術がずっと続いていくことを願っています。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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