50年ほど前の彦根仏壇のお洗濯。浄土真宗本願寺派、三重県いなべ市のお客様
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日本を代表する産地彦根で、こだわりの手造り仏壇を製造しております、井上仏壇の井上昌一と申します。
三重県いなべ市のお客様より、50年ほど前の彦根仏壇のお洗濯をご依頼いただきましたので、ご紹介いたします。
三重県いなべ市のお客様 洗濯(お値打ちコース)浄土真宗本願寺派
今回のお客様はいなべ市にお住まいで、十数年前にご親戚様のお宅のお仏壇をお洗濯させていただいた際に初めてお会いしました。当時は電装品の交換や金具のサビ部分の金メッキ、色付け加工などの修理を承り、このたびご自宅を新築されるのに伴って、「我が家の仏壇も古くなっているので洗濯をしてほしい」とのことで、またお声かけくださいました。
いなべ市は、以前にもお話しましたが、県はまたぐものの山を越えたお隣という地理的にも近い関係上、彦根仏壇を祀っているお宅が多い地域です。いなべ市内には、彦根仏壇を取り扱っている仏壇店も多く、当店も以前からとてもご縁が深い地域で、たくさんのお客様にお声かけいただいています。
お引き取り・解体前
さっそくご自宅へ伺って、お仏壇を拝見しました。4尺3方開き、当店のものではありませんが、50年ほど経ったとても立派な彦根仏壇です。
十数年前にさせていただいた修理は、青サビが出ていた金具を外して金メッキをしなおしたり、電装品の交換をしたりする修理でした。この時代に作られたお仏壇は、大量生産が始まった時期で、外国産の木材も使われ始めた頃です。そのため、木材が貯木場で海水の塩分を含んでいて、釘を打つと塩分の影響でしばらくしてサビが出てくることがあります。この時代の商品には、よく見られる事例です。現在は、外国産の木材も使用していますが、海水に浸けていない陸揚げ材を使っています。
今回は、全体的に黒ずんできていることや、代用金(本金でない真鍮箔)を使った部分が変色しているところなどが気になっておられました。拝見してその場でお見積もりや作業内容のご説明を差し上げると、すぐにご依頼という運びになりました。
お仏壇をお引き取りして、工房へ持ち帰ってきました。中の仏具は取り外してあります。お洗濯にあたって解体作業に入りますが、その前に全体を確認していきます。
一番外側の雨戸を閉めた状態です。木目が出るように半透明の赤みのある塗り方(木目出し塗り)で仕上げられた表面は、経年劣化でツヤがなくなっています。
お障子を閉めた状態です。一見問題ないように見えますが、やはりこちらも塩分の影響が強く出ていました。金具も当時のもので耐久性が低かったので、新しいものに取り換えます。
また、こちらのお仏壇は上部の前狭間彫刻が樹脂製でした。今は木彫りが一般的ですが、当時のお仏壇には樹脂製のものはよく使われていました。これを機に、木彫りのものでよく似た図柄に交換します。
こちらはお仏壇内部のお屋根の部分です。すすけて黒ずんでいるのが分かります。全体の確認を終えたら、解体して洗浄作業に入ります。
解体、洗浄・乾燥
すべての部品を解体しています。取り外した部品から金具や彫刻などをはずしています。
黒ずんでいたお屋根の部分を洗浄しています。油煙やすすなどの汚れをきれいに落とします。
洗浄が終わったら、天日干しで乾燥させます。細かい部品をひとつひとつ手作業で洗浄し、乾燥させます。塗っていない裏側(白木部分)は水分を吸っているので、天日に向けて干します。
木地直し、交換等
洗浄が終わったら一度仮組みします。仮組みでは、扉や引き出しがきつくないか、反りやガタツキがないか、水平が取れているかなどを全体的に確認して、必要に応じて直します。青いテープを貼っているのが調整の必要な部分です。
新しくお作りした前狭間彫です。以前のものに似た図柄をご用意しました。蘭、竹、菊、梅の四つの草木を使った「四君子」という柄です。
こちらはお仏壇の上部と下部の台輪部分です。釘が打ってあった部分は穴を開けて、埋木(うめき)をしました。木材の塩分を含んだ部分を取り除き、サビがでないようにするためです。
※「埋木」:穴などを他の木材で埋めること。
埋木では間に合わない部分は、新しくお作りして交換しました。障子4枚と右大柱、狭間縁、定木などです。障子には木曽桧を使用しています。
塗り上がり、組立
塗装が仕上がり、組み立てに入りました。黄色いところは金箔を押す部分です。埋木をした台輪もきれいに塗りあがっています。うっすら残っている埋木部分に、このあと金具を取り付けます。
下から順に組み立てていきます。金箔を貼って、蒔絵を施した引き出しなども入れました。柱などはメッキし直した金具を取り付けて、内部の彫刻も入れて組み立てていきます。
表装直し(上金襴仕立て)
掛け軸 表 表装直し前
こちらは仏画掛軸の表装直しのようすです。ご宗旨は浄土真宗本願寺派、ご本尊は阿弥陀様で、左右は九字十字名号です。左手の九字は南無不可思議光如来(なむふかしぎこうにょらい)、右手の十字は帰命尽十方無碍光如来(きみょうじんじっぽうむげこうにょらい)と書いてあります。本紙(中央の描かれている紙)はきれいですが、周りの表装部分がヨレヨレで反ってしまっています。
掛け軸 表 表装直し後
表装直しをした掛け軸です。本紙はめくってきれいに洗い、周りは上金襴で表装直しました。両脇は、お仏壇の間口に合うように少しサイズダウンしています。
掛け軸 裏 表装直し前
掛け軸の裏側です。印の部分は「裏書」といって、ご本尊の掛け軸の裏側に書かれているものです。「方便法身尊形」という文言と当時の御門主のお名前と落款が記されています。
掛け軸 裏 表装直し後
表装直しの際は、このように裏書を残して貼りつけます。長い間守ってこられた掛け軸も、このようにして残すことができます。
ご納品
お洗濯を終えたお仏壇を、新築されたご自宅へご納品させていただきました。
新品のようにきれいになったお仏壇です。左右に下がっている輪灯、おりんなどは、お手持ちのものにお磨き不要のセラミック加工をさせていただきました。
電装品(LED)は以前修理をさせていただいた時に交換したので、今回はそのままです。本尊を照らすスポットライトだけ追加しました。花立や蝋燭立などは状態が良かったので、少しお掃除して置いています。中央の青磁の香炉は新しいものです。また、手前の経机(キズ防止金襴布(防炎)付)は今回新調していただきました。蝋燭やお線香などはこちらで焚けるので、お仏壇の中がすすけてしまうこともありません。
真新しいお部屋に祀られたお仏壇です。こうしてみるとほとんど新品と変わりません。汚れを落とすだけの洗浄とは違い、洗濯であれば塗り直しや金箔の押し(貼り)直し、金具の金メッキ加工まで行いますので、見た目はほとんど新品と変わらなくなります。
新品と変わらないようなきれいな仕上がりに、お客様にはとても喜んでいただけました。今回はご自宅の新築にあたってのお洗濯される動機は「自分たちが新しい家に入るのだから、お仏壇もきれいにしてご先祖様を新しい家にお迎えしたい」というお気持ちからでした。これからも毎日気持ちよくお参りいただけると思います。また、古くなった箇所をすべて新しいものに交換するのではなく、可能なものはできるだけ活かすことで、大切なお仏壇を後の世代に残すことができましたので、お孫さんの代まで安心して末永くお祀りいただければ幸いです。このたびは、また当店にお声かけくださいまして、ありがとうございました。これからもどうぞ末永くよろしくお願いいたします。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
※お仏壇の「洗濯・洗浄」についてはこちらをごらんください>>「洗濯・洗浄」