年忌法要を控えた約60年前の彦根仏壇のお洗濯。浄土真宗本願寺派、滋賀県栗東市のお客様

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日本を代表する仏壇産地彦根で、こだわりの手造り仏壇を製造しております、井上仏壇の井上昌一と申します。

滋賀県栗東市のお客様より、約60年前の彦根仏壇のお洗濯をご依頼いただきましたので、ご紹介いたします。

 

4尺3方開き 彦根仏壇 洗濯(標準) 浄土真宗本願寺派

 

ホームページをご覧になったお客様から、「お仏壇の洗濯をしたいので見積りをしてほしい」とご依頼いただき、栗東市のお客様宅まで早速伺いました。

お引き取り

こちらがご相談のお仏壇です。お引き取り時に撮影させていただきました。まず全体的に黒ずみが見られ、お仏壇上部の前狭間の彫刻が取れてしまっていました。中の金箔も変色があったり、すすけていたりして、お客様も気になっていらっしゃったようです。ご購入から60年ほど経って不具合も出てきていたので、確かにそろそろお洗濯が必要な時期ではあります。年忌法要を控えておられたので、これを機にお仏壇をきれいにしたいとご希望でした。

当初、このお仏壇をお洗濯してきれいにすること以外に、小さめの新しいお仏壇に買い替えることも検討されていましたので、そのお見積りも差し上げました。あわせて詳しくご説明をしてから、後日新しいお仏壇を見にご来店下さいました。ほかのお店にも話を聞いておられましたが、しばらくして「そちらでお洗濯をお願いしたい」とご連絡をいただきました。お洗濯を選ばれた理由としては、費用面ではお買い替えとあまり変わりがないため、それならお父様から大切にされてきたお仏壇を残したいという思いが大きかったようです。

分解・洗浄・乾燥

お仏壇のお洗濯の工程は、大まかに下記のようになります。

お引き取り → 分解 → 洗浄・乾燥 → 木地直し → 塗り直し → 金箔押し・蒔絵・金具表面加工(めっき・色付け)→組み立て → 納品

お引き取りの時期は、ご希望の納期から逆算して決めますが、余裕をもって数か月から半年くらい前のお引き取りをお願いしています。仏具の取り外し等はこちらで行いますが、お引き取り前にお性根抜きをしていただき、引き出しの中身等は取り出しておいていただきます。お写真は、お引き取り後、お仏壇を工房に持ってきたところです。記録の意味も含めてお写真を撮っておきます。

 

扉を閉めたところです。扉の開け閉めや引き出しの開閉、きつさや緩さなどを確認します。

 

宮殿部分です。かなりすすけて黒くなっています。こうしたところも細部まで撮影しておき、組み立ての時の参考とします。

 

仏壇下部の引き出しなどの部分です。この時代のお仏壇には、いま使われているような金箔ではなく、代用金が使われていることも多いです。金が高価だったことが理由だと思いますが変色が早く、このお仏壇にも一部使われているようでした。確認を終えて、分解に入ります。

 

お仏壇をひとつずつ分解していきます。扉やお障子、中の引き出し等から、彫刻や金具などの細かいものもすべて外します。外せる場所は決まっているので、お仏壇の造りを理解していなくてはできない作業です。造りには地域性もあり、今回は彦根で作られたお仏壇でしたのでスムーズでしたが、名古屋や京都など他の地域のお仏壇ですと若干違いがあり、経験や知識を必要とします。分解が終わったら専用の洗浄液で洗い、油煙などの汚れを落とします。

 

洗浄が終わって、天日干しをしています。彫刻や屋根の部分など、細かい木製の部分です。乾きやすいように、塗っていない裏側の白木部分を太陽に向けて干しています。

 

仮組・木地直し調整等

一旦解体したお仏壇を仮組みしたところです。歪みやきつさなど悪いところがあれば、調整してまた仮組みして…を繰り返します。上部の前狭間彫刻は、以前のものは樹脂製のものでしたので今回交換することになり、サイズが変わるので枠も新しいものに取り換えました。

 

一番外側の雨戸(扉)は今回すべて新しくしました。当初は、そのまま利用する予定でしたが、分解してみると反りがあって調整がかなり難しかったので、交換をご提案しました。戸板部分は突き板合板といって、天然木を薄くスライスしたものが表面に貼られて木目が出ています。塗装しやすいように最初から着色塗装がされています。

 

こちらは新しくした前狭間の彫刻です。以前の樹脂製のものに近い図柄を選びました。白木→塗装→金粉を施しました。

 

こちらはお仏壇内部の花の彫刻で、こちらも前狭間の彫刻と同じように樹脂製でしたので交換しました。下のベースとなる部分は木材でしたが、細かい花などは樹脂でした。白木で写っている花が交換部分です。

 

本尊・両脇 表装直し

本尊表側

ご本尊の掛軸はお手持ちのものを表装し直して使われることになりました。阿弥陀如来様の仏画掛軸です。本紙部分(絵の部分)だけをめくって、その周りの赤い部分より外側は上金襴で表装し直しました。本紙は比較的きれいな状態でしたので、軽く洗ってきれいにした程度です。

本尊裏側

本尊の裏は、上の方に裏書が貼ってあり、昔表装直しをされたことが分かりました。下に「昭和39年」とあり、お父様のお名前も添えられていて、このお仏壇を求められた時に直されたようです。とても長い歴史のあるご本尊です。この裏書とお父様のお名前のある部分は、新しく表装し直したご本尊の裏に貼付して残しました。

 

両脇(二つ折り保存)

両脇の掛け軸です。お西の場合、今は両大師の掛け軸を掛けることが一般的ですが、こちらのお仏壇には「南無阿弥陀仏」の六字名号と御文章の一部が掛けられていました。

 

こちらは加工して厚めの台紙に貼り、二つ折りにして保存できるようにしました。ご本尊と同じように表装直しをすることもできましたが、お客様とお話すると、お仏壇の方は両脇掛け軸を新調することをご希望でしたので、この方法をご提案しました。

 

塗り上がり・組み立て

木地直しが終わって塗りの工程に移り、仕上がったところです。塗りは、何度も塗り重ねることでこのように艶やかに仕上がります。塗り上がって一度仮組したら、また分解して金箔押しの工程に入ります。金箔押しをする部分の確認も行います。

 

金箔を押し(貼り)終えて、組み立てに入ります。本体を下から順に組み立てていき、彫刻などもはめ込みます。不意の落下でキズがいかないように毛布を当てています。

 

ご納品

お魂入れとお年忌法要が終わったお仏壇です。全体にすすけていたお仏壇が、とてもきれいになっています。

 

中央には表装をし直した阿弥陀如来様の仏画掛け軸、その両脇が今回新調された両大師様の掛け軸です。表装の柄は、阿弥陀様の掛け軸と合わせました。阿弥陀様の前にかかっている赤い布は「戸帳」といい、こちらは新しいものに交換しています。

 

灯篭や隅瓔珞(すみようらく)も、戸帳と同じく新調いただきました。両脇に下がっている輪灯とおりんは以前の物にセラミック加工をして、お磨き不要加工を施しています。五具足はお手持ちの物に色付け加工をしました。前狭間は新しい彫刻が新たに入り、お仏壇内部の明かりはすべてLEDになっています。長い間電球交換が必要なく、熱を持たないので安全です。

 

お年忌の時などにはこのように打敷を敷きます。ご希望でお西の宗紋(下り藤)が入ったものをご用意しました。お仏壇の中の蝋燭はLEDで、実際にお蝋燭に火をつける時は、手前の経机の上でお給仕できます。煤などで汚れる心配がないため、多くの方がそのようなかたちでお参りされています。

 

お施主様には、見違えるようにきれいになったお仏壇に大変喜んでいただけました。お年忌にも間に合い、立派に法要することができたと安心されたご様子でした。実はお仏壇の和讃台(引き台)の裏側には、お仏壇を新調された時に書かれたであろうお施主様のお父様とご家族皆様のお名前とご年齢などの記載があり、その中には今回の施主様のお名前と当時の年齢「九歳」という文字も残されていました。お仏壇はこうして代々受け継がれていくものなのだということを目の当たりにして感慨深かったです。これまでの60年という長い月日と同じように、これからもお子様やお孫さんの代まで、大切なものとして末永く受け継いでいただけると嬉しい限りです。このたびは当店にお仏壇のお洗濯をご用命いただきまして、ありがとうございました。

今回は、60年ほど前のお仏壇のお洗濯の事例でした。「お仏壇をきれいにしたい」という場合、お洗濯をするのか、この機会に買い替えるのか、迷われる方が非常に多いです。今回のお仏壇は初めてのお洗濯でしたので特別な費用はかかりませんでしたが、2回目、3回目となると取り換える部分も増えるのでより費用がかかる傾向があるため、買い替えを決断されることもあります。ご予算面以外にも、ご家族のご意向や住空間の変化などからこの機会にコンパクトなものに買い替えるというケースも多いです。ただ、「ご先祖様から大切にしてきたお仏壇を残したい」という方には、新品同様にきれいになるお仏壇のお洗濯はとてもお喜びいただいています。当店は、実際に自分でお洗濯を行っているからこそのプロの目でお仏壇の状態を、的確に見極めてお見積りをいたしますので、ただ費用をお伝えするのではなく、どのような修理や修復作業を行うのかといった具体的なご説明も可能で、この点は他店に負けない自信を持っております。お仏壇のことで分からないことがあれば、どんなことでもお気軽にお尋ねください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

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