御堂造り内寸三尺六寸三方開き、真宗大谷派のお仏壇。第24回全国仏壇仏具展にて、伝統的工芸品産業振興協会賞を受賞しました。

ホームページをご覧いただきまして、ありがとうございます。

日本を代表する産地彦根で、こだわりの手造り仏壇を製造しております、井上仏壇の井上昌一と申します。

今回は、第24回全国伝統的工芸品仏壇仏具展において、「伝統的工芸品産業振興協会賞」を受賞したお仏壇の製作工程をご紹介いたします。

このブログのお仏壇製造を記念して、アルバムを作成いたしました。このようなお仏壇(サイズは問いません)にご興味がある方は、メール(info@inouebutudan.com)にてアルバムをご請求下さいませ。

 

御堂(みどう)造り 内寸三尺六寸三方開きのお仏壇

第24回全国伝統的工芸品仏壇仏具展にて (一財)伝統的工芸品産業振興協会賞受賞

 

このたび、ご注文いただいていたお仏壇を「第24回全国伝統的工芸品仏壇仏具展」に出品し、(一財)伝統的工芸品産業振興協会賞という賞をいただきました。岐阜県安八町のお客様からご注文いただいていたもので、こういった会があることをお話ししておりましたら、「せっかくだから出品して賞をとって、この仏壇に箔を付けて!」とお客様からお申し出がありましたので、賞獲得のため出品させていただきました。すると、全国でも3番目に入る賞をいただくことができました!

今回は、お客様からお仏壇をご注文いただくに至った経緯や、ご希望に合わせてお造りしたお仏壇の製造工程からご納品までをご紹介いたします。

 

ご相談いただいた経緯とご注文の内容

ホームページをご覧になったお客様からお問い合わせをいただきました。岐阜県安八町にお住まいのお客様で、お持ちの古い彦根仏壇のお買い替えを検討されていました。名古屋仏壇なども考えられたそうですが、名古屋仏壇は背が高くて仏間を改造しなくてはいけないため、今まで通りの形の彦根仏壇で買い替えようと、インターネットでいくつかお店を探されていたそうです。

初めてお話しをいただいたのは一昨年の2月頃で、当初はその年の8月に迎えられるご主人様の1周忌までに買い替えを・・・というお話しでしたので、一から製作するのでは間に合いません。そのため展示品の中から探されて、当店より他店さんで気に入ったものがおありだったようですが、その後も何度も通ってくださっている様子から、「100パーセント気に入っていらっしゃるものではないのかな?」という印象を受けました。詳しく伺うと、お住まいの岐阜県の地域性から、その展示品のお仏壇よりももっと豪華なお仏壇をご希望でした。

そこで、お年忌には間に合わなくなりますが、お客様のご希望を完全に満たしたお仏壇を一から造らせていただけないでしょうかとお話しをしました。当店では、お住まいの岐阜県に向く派手で豪華なお仏壇を造るのにも慣れていますし、地域性をきちんと把握していますので、ご希望通りのお仏壇をご提案させていただきました。すると、お客様も「せっかく造るなら、100パーセント満足いく子々孫々まで残るものを造りたい」と申され、ご注文いただくことができました。

まずは、完成したお仏壇をご覧ください。

完成品

 

前回のブログでもご紹介したように、彦根の金仏壇は、

①木地(きじ)
②宮殿(くうでん)
③彫刻
④漆塗り(うるしぬり)
⑤金箔押し
⑥蒔絵(まきえ)
⑦錺金具(かざりかなぐ)

という大きく7つの工程を、各工程の熟練した職人たちが仕上げて造り上げていきます。その後、組み立てを経て設置・納品することになります。

それでは、ご納品までの各工程をご紹介します。

 

木地

木地(きじ)の完成品です。木地は、お仏壇の土台となる、塗る前の状態のものをいいます。合板(ベニヤ板)を使わず、総木曽檜(ヒノキ)造りの木地です。木目が出ている少し茶色い部分は欅(ケヤキ)です。大きさは、一番下の台の幅で130cm、高さは180cmあります。

 

【木地師 佐々木 秀行】

木地を作る木地師の作業風景です。これは、お仏壇の一番下の3つ並んだ台輪引き出しの前を加工しているところです。

 

お仏壇雨戸(外扉)の一部です。茶色い部分は玉杢(たまもく)模様の欅無垢の戸板です。この玉杢の部分は、このあとの工程で木目を埋めないように塗って金箔を押します。今回は、この角の部分に少し細工をさせていただいて、お客様の家紋「剣花菱」の1/4をシンボル化したものをデザインし、彫刻で表現しました。

 

宮殿

宮殿(くうでん)は、お寺でいうとご本尊様を安置する場所で、お仏壇の中にもこの宮殿を模したものがあります。その木地が完成した様子です。

 

【伝統工芸士 宮殿師 田中 正司】

宮殿師の作業風景です。先々代から60年以上にわたって、当店の仏壇の宮殿を造っている職人さんです。写真は、機械ではできない細かい彫刻を手作業で行っているところです。

 

この写真でいうと、印の部分の細かい渦模様などの彫刻を、手作業の刃物使いで行います。とても細かい仕事です。

 

右側の中屋根、左側の細かい堂枡なども木地寸法に合わせて、すべて手作りします。それぞれ細かいパーツごとに何百個と作って、それを組み合わせていくという、とても時間のかかる作業です。右側の中屋根は、真宗大谷派(お東)のお仏壇では「瓦葺の2重屋根」が基本となりますので、とても手が込んでいて手間隙がかかり、これだけでも製作に1ヶ月以上を要します。

 

彫刻

彫刻の完成品です。これはお仏壇上部の前狭間の彫刻で、石枕などの「親鸞聖人一代記」の場面を形どったものです。

岐阜県向けに、名古屋壇の三つ切り狭間の形を採用しています。彦根仏壇のように通り狭間ではなく、三つに狭間を区切ってその間獅子や象を取付け、さらに上部に差し升(サシマス)を付けた絢爛豪華な意匠となっています。

 

【伝統工芸士 彫刻師 清水 弘司】

彫刻師の作業風景です。柔らかくて加工のしやすい紅松(ベニマツ)を使用しています。

 

細かいパーツのすべてを、手作業で彫刻します。繊細で丁寧な、躍動感のある彫刻です。これに塗装して、その後金粉を蒔きます。先ほどのような艶やかできらびやかな彫刻が完成します。

 

漆塗り

完成した木地や宮殿・彫刻などに、下地加工をしたあと漆を手塗りします。赤い部分は、朱漆を塗った部分です。金箔を押す場所にもすべて漆を塗ります。金箔が光り過ぎないように、漆は艶消し漆を使用します。艶やかな輝きのある鏡面仕上げの場所は、下地加工から数えると約25回の塗りの工程を繰り返しています。

 

【伝統工芸士 漆塗り師 中嶋 誠作】

漆塗り師の作業風景です。たくさんの種類の漆刷毛(漆塗り専用の刷毛)を使い分けて塗っていきます。

 

漆塗りの工程です。一番左はまだ塗り始めで着色や吸い込み止め(正面)、下地(側面など)のところ、真ん中は中塗りをしたところ、右が完成品です。塗りを重ねるごとに艶やかになっていくのが分かります。

 

金箔押し

漆塗りのあとは、金箔押しをします。写真は、先ほどの扉の部分です。きれいな玉杢模様が残るように漆を塗って、そこへ金箔押しを押しています。

 

【金箔押し師 宮川 浩】

金箔押し師の作業風景です。右手に持った箔箸(はくばし)という竹のピンセットで、こういったかたちで金箔を貼ります。金箔押し用の箔押し漆を接着材に使用して、風が吹くと飛んでいく薄さ(約0.001mm=1ミクロン)の金箔を接着(押)します。

 

宮殿の細部や雨戸裏などにも丁寧に金箔を貼っていきます。こうして豪華な仕上がりのお仏壇へと近付いていきます。

 

錺金具

 

これは、扉の金具 で八双(はっそう)・閂(かんぬき)です。お仏壇の雨戸(外扉)に施されています。錺金具師が真鋳の板を加工して作成し、その後、漆焼付け塗装で、宣徳色と呼ばれる落ち着いた風合いに仕上げています。

 

【伝統工芸士 錺金具師 木村 数茂】

錺金具師の作業風景です。八双の左右の唐草の透かし模様は、こうして糸ノコでひとつずつ手作業で抜いていったものです。気が遠くなる作業です。一つ間違えば取り返しがつきません。

 

左の内部の金具は、本消しメッキ(本金メッキの艶を消した)加工を行い、右側の八双などの雨戸(外扉)金具は、漆で焼き付け加工をして仕上げます。中央の3枚は、長押の金具で月の満ち欠けを表現しています。このほかにも、細かな部分にたくさんの錺金具が使われています。

 

蒔絵

お仏壇の引き出しには、艶やかな美しい蒔絵が施されています。上段左が桜、右が紅葉で、真ん中は水鳥が泳いでいます。3枚でひとつの池、日本の四季を現しています。下段の台輪引き出しも同じ池に浮かぶ花筏(はないかだ)というデザインです。

 

【伝統工芸士 蒔絵師 北村 順治】

蒔絵師の作業風景です。蒔絵は、まず漆で絵を描き、漆が乾く直前に金粉などを蒔き、漆が乾くと同時に金粉を密着させるという伝統的な技法です。

 

 【蒔絵の下絵 デザイン協力 乾 陽亮】

こちらは蒔絵の下絵です。通常は蒔絵師さんが下絵から作成しますが、今回は初めての試みとして、デザイナーさんにトータルでデザインの監修をしてもらいました。

 

蒔絵は、山水や花鳥など、日本の伝統的な図柄を描くことが多いですが、ご希望に応じてあらゆる図柄を描くことができます。

 

組立て

当店の工房にて組み立てを行います。完成したそれぞれの部品をすべて集め、金具を打ったり彫刻を取り付けたりして下から順に組み立てていきます。

 

左は柱を打っています。組み立てる前に金具を打ってから、右のように本体に立てて組み立てます。

 

ひとつひとつの部品の場所が決まっているので、所定の位置に組み込んでいきます。彦根仏壇では、基本的に溝やほぞ穴があり、そこに差し込んいきます。洗濯(修理)の時に、分解に困らないように、釘や接着剤は出来るだけ使用しません。基本的には組み立ててから運搬・設置しますが、運搬が困難な2階などの設置場所では組み立てからもう一度バラして持っていくこともあります。

 

設置

岐阜県のお客様宅へ設置しました。22か月(1年10ヵ月)の製造期間を経て、ご納品を迎えました。

 

【ご本尊 阿弥陀如来立像 6.0寸 仏像白檀 截金(きりがね)仕上げ 本山型台座】

仏像も新調していただきました。この仏像は、本山の木仏点検に合格した仏像となります。京都のご本山(東本願寺)の阿弥陀堂にある阿弥陀如来様のお姿と同じ仏像でないと点検に合格することが出来ません。木仏点検の申請を行い、ご本山まで仏像を持参して、点検を受け、合格した仏像です。仏身は、衣を截金(きりがね)細工で表現しています。台座は、最高級の形である本山型です。仏像は、本山より御墨付きの証書をいただき、当店で二つ折り加工をして納めさせていただきました。

また、お写真では見えませんが、今回両脇の法名軸はお手持ちの掛軸を、仏壇の寸法に合わせて表装直しをさせていただきました。本金襴仕立ての最上級のものです。

左は伝統的工芸品の検査合格書、右は今回の受賞でいただいた賞状です。

 

伝統的工芸品の検査に合格すると、見えない場所(向板(正面板)やごみ取り板(上部板)の裏側)に、組合検査委員会よりこの焼印をいただくことができます。

 

今回受賞したことを、色々な新聞で取り上げていただきました。これもお客様に後押しをいただいたおかげです。

 

お客様には、綿密な打ち合わせ通りのお仏壇に仕上がり、大変喜んでいただきました。22ヶ月という長い間お待ちいただき、本当にありがとうございます。また、仏壇仏具展への出品を後押しくださったこと、改めて感謝申し上げます。プレッシャーもかかりましたが(^^;)、長いこと待っていただいた甲斐あって、素晴らしい仕上がりになりました。とてもご満足いただけたようで、納品から1週間くらいはずっとお仏壇の前で眺めていたんですよと、何よりのお言葉もいただきました。

私の長い経験の中でも、これだけの長い時間と費用をかけて、お仏壇をお造りしたのは初めてのことでした。これまで使っていなかった技法を取り入れたり、デザイナーさんに加わってもらったり、初めての試みにも挑戦させていただき、たくさん勉強をさせていただきました。今回のお仏壇は、いまの彦根の仏壇職人さんたちの最高級の技術を集結させて造り上げたお仏壇で、素晴らしい仕上がりになったと思います。こうした貴重な機会をいただけて、本当にありがたく思います。

最後に、時間と製作費にご理解をいただきましたお施主様、そして私の“ ものづくり” への思いを実現するため素晴らしい仕事をしていただいた職人の皆様に深く感謝を申し上げます。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。